「失った分を取り返し、さらに増やせばいい」FXに800万円を投じ、借金を膨らませた20代会社員
これまで真面目で堅実に暮らしてきたコウヘイさん(28)は、いつしかFX取引にのめり込んでいました。消費者金融から何度も借金を重ね、現在は自己破産の手続きを進めています。なぜ、ここまで追い込まれてしまったのでしょうか。

清潔感があり、洗練された雰囲気のコウヘイさん(撮影・岩永直子)
公開日:2026/03/10 04:00
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真面目に働き、堅実な人生を歩んできたはずでした。しかし、気づいた時にはFX取引から離れられなくなっていました。
大きな損失を出し、借金をしても、次の取引で取り戻せると信じ続けていました。
その末に、現在は自己破産の手続きを進めているコウヘイさん(28)。
いったい、何が彼をここまで追い込んだのでしょうか。
金銭的に苦しかった幼少期
高等専門学校を卒業したコウヘイさんは、大手住宅設備メーカーへ就職しました。同年代の中では比較的高い給与を得ていましたが、2024年にFXを始めるまで、ギャンブルや投機性の強い投資に関わった経験はありませんでした。宝くじを時々10枚ほど購入する程度でした。
入社6年目になると、「自分だけでなく、お金にも働いてもらいたい」と考えるようになりました。そこで、新NISAや確定拠出年金の運用商品を見直し、世界中の株式に分散投資する投資信託を選びました。当時は、できるだけリスクを抑えた堅実な商品にしか投資していませんでした。
お金を増やしたいという気持ちには、幼い頃の生活環境も影響していました。
「幼稚園の年長くらいの時に両親が離婚しました。父親の顔も覚えていません。養育費もなかったため、最初は母と弟と私の3人で市営住宅に暮らしていました。小学5年生の時に母が再婚し、12歳下の妹が生まれました。18歳の時に家を建てて引っ越しましたが、それまではずっと生活に余裕がありませんでした」
暮らしていた市営住宅は、6畳の部屋が二つだけでした。壁にはカビが生え、畳は傷み、ゴキブリも頻繁に出ました。母親もまた、シングルマザーだった祖母に育てられており、「きちんとした会社に入り、しっかり稼ぎなさい」と繰り返していました。
「母も、人生の中でお金に困らなかった時期がほとんどなかったのだと思います。祖母も一人で母と叔父を育て、母自身も経済的に苦労していました。だから、自分の子供には同じ思いをさせたくなかったのだと思います」
成績が良かったコウヘイさんが高専に進学した理由にも、就職に有利だという考えがありました。卒業後は希望通り大手企業へ就職し、実家に生活費を入れながら、貯金も続けていました。
二人分の収入があればという思い
就職後は、好きなバンドのライブへ行き、以前から関心があった歯列矯正や脱毛にもお金を使っていました。それでも貯金を続けられるだけの余裕はありました。
オンラインゲームで知り合った遠距離恋愛のパートナーができたことで支出が増え、「もっとお金が必要だ」と考えるようになりました。
当時、コウヘイさんは北関東の実家に住み、パートナーは東北で暮らしていました。2023年12月、年末年始に東京に住む共通の友人の家へ集まることになりましたが、彼女は「お金がないから行かない」と話しました。彼女は収入のほとんどを実家に渡していました。
金銭的な理由で会えないことを寂しく感じたコウヘイさんは、彼女の交通費や食事代などをすべて負担しました。
一緒に過ごす時間が終わりに近づいた頃、何気なく「思ったよりお金を使ったな」と口にすると、彼女は泣き出し、「帰る」と言いました。必死に引き留めながら、「自分が二人分を稼げれば、もっと余裕ができ、彼女を傷つけずに済む」と考えました。
「彼女を責める気持ちは全くありませんでした。本当に何気なく口にしただけです。ただ、その頃の私は26歳で、収入もそれほど多くありませんでした。もっとお金があればと思ったことが、投資を始めるきっかけになりました」
そこで頭に浮かんだのが、会社で請負業務をしていた人物から勧められたFXの自動売買でした。資金を預け、条件を設定すれば、システムが24時間自動的に取引を行う仕組みです。
2024年1月、初めて投入した金額は10万円でした。その資金は1週間で20万円になりました。
「すごいと思いました。その瞬間、働くことがばかばかしく感じました。どうしてみんなやらないのだろうと思いました」
ところが翌日、利益を含めた資金をすべて失いました。なくなるまでに時間はかかりませんでした。
失っても「次は取り戻せる」と考えた
最初の取引が失敗しても、コウヘイさんはFXそのものに問題があるとは考えませんでした。「設定方法を間違えただけだ」と判断しました。
「設定値が正しくなかったから失敗したと思いました。すぐに設定を変更して、もう一度投資しました。自動売買だけでなく、自分でも取引すれば、もっと早く失ったお金を取り戻せるのではないかと考え、20万円を入れました」
その20万円も、1月中にすべてなくなりました。1カ月にも満たない期間で合計30万円を失いましたが、今度は「自分で取引したことが失敗の原因だ」と考えました。
「当時の手取りは20万円ほどでした。最初の10万円が1週間で2倍になった経験が、強い成功体験として残っていました。貯金も100万円程度あったので、30万円を失ってもまだ問題ないと思っていました」
二度続けて失敗しても、やめるという考えは浮かびませんでした。
「まず損失を取り戻して、その後に利益を増やしていけばいいと思っていました」
次はさらに金額を増やし、50万円を投入しました。一時は100万円まで増え、「ここからもっと増やせる」と期待しました。しかし、その資金も短期間ですべて失い、貯金もほとんど残りませんでした。
この頃、パートナーから「もうやめた方がいい」と止められました。コウヘイさんは口では「もうやめる」と答えましたが、本当にやめるつもりはありませんでした。
消費者金融から次々に借りる
FXを始めてからわずか2週間後、コウヘイさんは人生で初めて消費者金融からお金を借りました。金額は100万円でした。失った資金を、このお金で取り返すつもりでした。
この頃から、SNSで販売されている自動売買ツールを利用するようになりました。さまざまなツールを試しましたが、どれを使っても結果は変わりませんでした。借りた100万円もすぐに失いました。
それでもやめず、別の消費者金融から新たに借り入れることを選びました。
「もっと丁寧にやれば取り返せると思っていました。これほど速いペースで損失が出ているのなら、反対に同じペースで利益を得ている人もいるはずだと考えたんです。自分が利益を出す側に入れば、それまでのマイナスもプラスに変えられると思っていました」
自分の失敗や行動を正当化する理由を、頭の中で必死に作り続けていました。
次は上手くいく。これまでの損失を取り戻し、その資金をさらに増やせると信じていました。
別の消費者金融から、カードローン枠で70万円、クレジット枠で70万円を借りました。最初にカードローンの70万円を使いましたが、そのお金もすぐになくなりました。
さらに別の会社から50万円を借り、消費者金融からの借入総額は290万円になりました。この頃には、実家へ生活費を入れることもできなくなっていました。
そこで、祖母に助けを求めました。
「祖母は『どうしてこんなことをしてしまったの』と言いながらも、借金をすべて代わりに返してくれました。『もう絶対にやらないで』と言われ、私もその時はもうやらないと答えました。でも、1週間後には返済された借入枠からまたお金を借りていました」
再び借りた100万円は、偶然にも200万円まで増えました。
「やっぱり自分はFXで稼げるんだ」
その成功によって、強い興奮と自信が戻ってきました。
誓約書を書きながら取引を続ける
その後、祖母に借金を肩代わりしてもらったことが母親に知られました。祖母の口座を管理していた母親から、「おばあちゃんの口座からあなたに300万円が送られている」と指摘され、事情を問い詰められました。
FXでお金を失い、祖母に借金を返してもらったことを正直に話すと、母親は「どのくらいのペースで返すつもりなの」と返済計画を尋ねました。
コウヘイさん自身も、この頃には返済しなければならないと考えていました。深夜から朝まで話し合い、毎月の返済内容を記した誓約書を作成しました。しかし、そのパソコンの別画面では、自動売買を動かし続けていました。
「FXの画面を見ると、100万円増えていました。それを見て、FXで利益を出して借金を返し、親を納得させればいいと思いました。表面上だけ反省しているように見せておけばいいと考えながら、誓約書を書いていました」
仕事中も取引し、会社に知られる
しかし、増えていた100万円も短期間で失いました。残った資金で何とか取り返そうとし、勤務中もスマートフォンを隠すように確認しながら、取引を続けました。
「会社ではスマートフォン、家ではパソコンを開き、ずっと取引していました。当然、仕事には全く集中できませんでした。私は生産管理を担当していましたが、ほかの部署から連絡が取れない、メールの返信がないという苦情が、直属の上司に届いていました」
上司に呼び出され、理由を聞かれました。コウヘイさんは、FXにのめり込み、仕事が手につかない状態だと正直に説明しました。
上司から「やめた方がいい」と言われましたが、「やめられません」と答えました。
「それでも仕事はきちんとしますと伝え、その時は注意だけで済みました。上司からは頑張るように言われました」
3月には、さらに別の消費者金融から50万円を借りました。祖母が返済してくれた金額も含め、3月下旬には再びすべてを失いました。自分の貯金、消費者金融からの借金、祖母が肩代わりした分を合わせると、総額は約800万円になっていました。
その時点で、もうどの会社からも借りることはできませんでした。仕事にも集中できず、再び上司に呼び出されました。借金の金額を伝えると、自力で返済するのは難しいだろうと言われました。
母親に打ち明け、平手打ちされる
「上司から『もう親に話すしかない』と言われました。最初は嫌だと断りましたが、仕事が全くできない状態だったため、課長が自分から説明すると言ってくれました。そして、課長と母と私の3人で会うことになりました」
2024年4月上旬、3人はスーパーマーケットのフードコートのような場所で会いました。
課長から事情を聞いた母親は、「あんたは、まだどうにかできると思っているの」と尋ねました。
「やり方次第では……」
そう答えた瞬間、母親から平手打ちを受けました。人目のある場所で、何度も頬を打たれました。
母親が運転する車で帰る途中、車内では、堅実なお金の稼ぎ方を説明するYouTube番組が大音量で流されていました。
「絶対に手を出してはいけないものとして、FXを取り上げている内容でした。でも、聞いても何も感じませんでした。自分は実際に利益を出したこともあるし、当てつけのように流されて、うるさいとしか思いませんでした」
平然としている息子の隣で、母親は突然過呼吸を起こしました。およそ1時間後に落ち着くと、「パートナーに電話して、別れると伝えなさい」と命じました。
電話をかけると、母親はFXによる借金についてもすべて説明し、「あなたに迷惑をかけるので別れてください」とパートナーに伝えました。戸惑ったパートナーは「一度保留にしてほしい」と答えましたが、最終的には数カ月後に別れることになりました。
「これから自分はどうなってしまうのだろう」
先の見えない暗い状況でした。それでもコウヘイさんは、まだFXで失ったお金を取り戻せると考えていました。